国民が求めている医療と介護の連携
私は、もともと血管外科医として第一線で医療にかかわってきました。
2005年に芦花ホームに着任した時、特別養護老人ホームに常勤医として勤める医師は居なくて、その状況は現在も変わっていません。
しかし、「平穏死」を伝え続けて、今は少しずつ新しい風が吹き始めています。
■若き医師の訪問
3年ほど前、30代の若い医師(本多智康医師)が訪ねてきました。サラリーマンを経て医師になった彼は、高齢者医療の悲惨さにショックを受けたそうです。本人の意思や尊厳がなく、衰弱していく高齢者の姿に、医師としてもどかしさを感じたのでしょう。そんなとき、私の著書を読み、終末期を支えたいと考えたそうです。
そして、芦花ホームと同じく世田谷区社会福祉事業団に属する特別養護老人ホーム、上北沢ホームに常勤医として着任しました。
30代という若さで、人生の最期を迎える高齢者とその家族を支えることは、さまざまな経験を経た80代の私とは違って苦労や難しさがあったと思います。
それでも、思いをもって2年半勤めあげてくれたことは、介護と医療との連携に風穴を開けてくれたと思います。
■救急外来のプロの着任
そんな上北沢ホームに、20年以上都立墨東病院の救命救急センター部長として活躍された濱邉祐一医師が着任されました。
濱邉医師は、生と死が隣り合わせの救命センターで、子どもから高齢者までたくさんの命を救ってきた方です。定年を機に、救急医療から介護の世界に来ました。
病院で治療し、人の命を救うことは重要です。しかし、治療が優先し、高齢者に延命治療を押しつけると本人は苦しみながら最期を迎えることがあります。
彼は、老衰という自然の摂理を受容し、本人の意思を尊重し、穏やかに見守ることも大切だと考え、特別養護老人ホームの常勤医を選ばれたと思います。
■本当の意味での医療と介護の連携
医療現場にどっぷり浸かっていると、患者の疾患ばかりを注視し、その人の心情やその後の人生にまで考えが及ばなくなってしまうことが多々あります。
しかし、医療は本来、患者の人生を豊かにしていくものです。
そして、介護もまた、その人の生活をよりよくするものです。共通の目的をもって医療と介護が連携していくとき、「平穏死」はもっと進んでいくと思います。
そのためには、患者の人生をみて、その人にとって本当に意味のある医療を提供し、ときには医療を施さないという選択もできる医師の存在が欠かせません。
濱邉医師が上北沢ホームに来てくれたことは、医療と介護の連携を推進させる大きな一歩であると感じています。
私は外科医として第一線で医療にかかわって来ました。しかし老衰という自然の摂理を受け入れ、本人の意志を尊重し穏やかに最期を見守ることも大切と考えます。
しかし最近は新しい風が吹き始めました。
■医療と介護の連携
医療現場に浸かっていると、人生や人の心情にまで思いが及ばなくなってしまうことがあります。
医療は本来、患者の人生の役に立ってこそ意味のあるものです。そして介護もまたその人の生活を守るものです。
手法は違いますが、共通の目的をもって医療と介護が連携していくとき、「平穏死」が実現します。そのためには患者の人生をみて意味のある医療を提供し、ときには無理な医療は施さない選択も大切です。
今こそ国民にとって、医療と介護の連携が喫緊の課題として求められているのでありましよう。
2023年1月25日 記
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石飛幸三
特別養護老人ホーム・芦花ホーム 常勤医
全国老人福祉施設協議会 理事
元東京都済生会中央病院 副院長
一般社団法人 日本介護事業連合会 理事